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保有耐力接合の演習問題と詳細な説明

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接合部の保有耐力設計とは「接合部の耐力>母材の耐力」となるように設計することで、部材の持つ能力を最大限に発揮するようにした設計法です。この設計法で使用する計算式は、建築基準法による規定より以下の式を検討します。この式自体は簡単で

です。つまり、左辺が接合部の耐力、右辺が母材の耐力でこの条件を満たせばOKとなります。ややこしいのは、破断形式によって左辺の有効断面積Ajの導き方が異なる点です。多くの方が混乱されるのも、そこに原因があります。


そこで今回は、より詳細に保有耐力接合について説明し、実際に演習問題を解きながら勉強しましょう。なお、今回の記事は下記を読んでいると理解がスムーズです。

接合部の保有耐力接合と計算方法

接合部に関する許容応力度設計について


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保有耐力接合の演習問題

引張材(耐震ブレース)における保有耐力設計では、接合部の破断の検討として、



を行うことで、接合部の安全性を評価しています(破断形式・箇所は図を参照ください)。この破断形式を良く理解することで、有効断面積の求め方が理解できるものと考えています。


なぜなら、破断形式というものは、その部材にどのような力が伝わっていたか?ということを明確にあらわす指標となり、それが有効断面積を求めるヒントとなるからです。

接合部の破断形式

接合部の破断形式について、図を交えて説明します。

1.ブレース軸部のボルト位置における破断

2.せん断力による高力ボルトの破断

3.接合部(軸部及びガセットプレート)の端空き部分における破断

4.ガセットプレートの破断

5.溶接部の破断


よって、1~5の破断の検討に対して、上記に示した式を適用し、接合部の耐力が母材の耐力を上回るように断面等を調整していくことが重要となります。前置きが長くなりましたが、?@~?Dに対してそれぞれ説明します。

設計条件

設計の諸条件は下記とします。

接合部の破断形式と、それぞれの計算方法

実際の破断形式と、それぞれの計算方法を説明します。

ブレース軸部のボルト位置における破断

まず、1はブレース軸部のボルト位置における破断の検討です。破断の検討式より、

左辺(接合部の耐力)及び右辺(母材の耐力)をそれぞれ求める必要があります。


右辺のα×Ag×Fを求めます。αは安全率と呼ばれる値で、これは一般的に1.2が良く用いられます。次に、Agは筋違材の全断面積ですので、1700mm2となります(鋼構造の参考書には、断面積の早見表が付録として付いているので、そちらを参考にしてください)。


Fは基準強度(N/mm2)と呼ばれ、"235"という値が用いられます(鋼の材質によって、基準強度は異なります。付録として掲載されていますので、鋼構造の参考書をご確認ください)。


よって、

となります。全断面積が×2となっているのは、設計条件で「2Ls」と指定しているように、引張材を両側に設定しているからです。


次に、左辺のAj×σuを求めます。Ajとは、「接合部の破断形式に応じた接合部の有効断面積(mm2)」と呼ばれているもので、ここでは、「軸部へ力が有効に伝わる断面積」と言えます。よって、接合部にとってボルト孔は欠損断面ですから、「全断面積(Ag)-ボルト孔の断面積(Ad)」として計算する必要があります。


また、より接合部を安全側に設計する目的で、「突出脚の先端長さ:hn」分の断面積を控除します。「突出脚の先端長さ:hn」については、鋼構造の参考書に付表がありますので、そちらを参考にしてください(※「突出脚の出効長さ」については唐突すぎて理解しにくいとは思いますが、鋼構造の基礎では取り扱う内容ではありませんので、とりあえず、こういうものだと考えてください)。


よって、有効断面積を求める式は、

となります。


上式から計算を行うと、

です。また、σuとは「接合部の破断形式に応じた接合部の破断応力度(N/mm2)」で、この場合、SN400B材の等辺山形鋼の破断に対して議論していますから、破断応力度は鋼材の強度ですので、400(N/mm2)となります。

といったような計算の流れとなります。


あとは、「接合部の耐力>母材の耐力」となるように、ボルトの本数を増やしたり断面を大きくしたりして調整するわけです。

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せん断力による高力ボルトの破断

次に、筋違材の接合部ファスナーの検討(せん断力によるボルト破断の検討)について説明していきます。これは、計算過程自体は難しくありません。


さて、同様に破断の検討式は、

です。ちなみに、右辺の「α×Ag×F」に関しては?@の検討で行いましたので、省略します。要するに、左辺の耐力を求めれば良いわけですね。σuはボルトの破断耐力です。これは、鋼構造の参考書に付録として掲載されていますが、F10Tの高力ボルトでは1000(N/mm2)です。


Ajはボルトの有効断面積です。今、接合部の破断形式としては、「せん断力によるボルトの破断」を検討しています。せん断力は"ボルト軸"を伝わり有効に働きますから、ボルト軸断面積を求める必要があります。


また、ボルト軸の「ネジ部」に関してはネジの隙間により、"有効に力が伝わらない"という考え方から、ネジ部の長さを控除したボルト軸長さを有効長さとし、全断面積の×0.75とした断面積が有効断面積として計算されます。よって、有効断面積を求める式は、


Aj=ボルト本数×筋違材の枚数×ボルト軸断面積×0.75


実際に計算を行うと、以下のように

ここでは、ネジ部がせん断面にかからないものとして考えます。

となります。


接合部(軸部及びガセットプレート)の端空き部分における破断

次は、端空き部分の破断の検討を行います。この破断は、「端空き」の長さが短いために、ボルトが母材を貫通して抜けてしまう破断です。端空きは36mmとして計算を行います。


さて、端空き部分の破断に関しては、「筋違材が抜けてしまう場合」と「ガセットプレートが抜けてしまう場合」の両方を考慮しなければいけません。筋違材の接合部はガセットプレートと鋼材で成るので、当然、両方とも検討する必要があるということです。


破断の検討式は、

です。端空きの破断形式から、その有効断面積を考えましょう。上記に示した破断形式の図のように、端空き破断は、端空きからボルトが抜け出すような破断です。破断形式というものは、その部材にどのような力が伝わっていたか?ということを明確にあらわす指標です。よって、有効断面積は


a)筋違材の場合

となります。

以上より、


b)ガセットプレートの場合

以上より、

といったような計算の流れとなります。この場合、破断の規定式を満たしていないので、端空きを変更して、再度計算を行う必要があります。


ガセットプレートの破断

次に、ガセットプレートの破断の検討を行います。基本的には、「軸部のボルト位置における破断の検討」と変わりません。


ガセットプレートの有効断面積を求めましょう。また、ガセットプレートに力が有効に働く長さを「有効幅:be」と定義します。有効幅とは、図に示すような矢印の長さからボルト孔を控除した値とします。つまり、応力方向における1番目のボルト位置から30°方向へ線を伸ばし、最後のボルトから応力直角方向へ伸ばした線との接点を結んだ距離からボルト孔を控除した値です。この有効幅×板厚が有効断面積であり、この断面に力が有効に伝わっていると考えます。


この有効幅については、「なぜ30°なのか?何の根拠があって?」と思われるかもしれません。しかし、これを理解するためには、膨大な研究資料を説明する必要がありますし、それは少々サイトの主旨とは異なりますので、割愛させていただきます。これは、こういうものだとご理解いただければと思います。


よって、有効幅は

となります。


つまり、1つ目のボルト中心から最後のボルト中心までの距離をピタゴラスの定理を用いて計算すれば、beを求めることができますね。また、ボルト間の距離(ピッチ)を与えていませんでしたが、これも仮定として適当に与えて構いません。ここでは、72mmとしています。(※72×4=288mm)


また、26mmという値はボルト孔です。設計条件よりボルトはM24を用いています。高力ボルトの孔径は鋼構造の設計指針より、呼び径よりも2mm大きくしてもよいとされています。よって、設計では多くの場合、あらかじめ「呼び径+2mm」をボルト孔として計算します。


有効断面積は有効幅×板厚ですから、

以上より、

となります。

溶接部の破断

次に、溶接部の破断に関する検討を行います。引張材の代表としては、耐震ブレースが考えられますが、このときガセットプレートは柱や梁に溶接して連結しています。よって、溶接部の破断に関する検討も大変重要となります。


溶接部の有効断面積を考えましょう。まず、溶接部の長さは、縦:200mm,横:170mmと仮定します。また、一般的にこの部分の溶接は「隅肉溶接」と呼ばれる溶接方法を行います。この溶接部のサイズは6mmと仮定します。また、溶接の端部は欠陥が多いので、サイズと同様の寸法6mmを控除した長さを溶接部の「有効長さ」として計算します。


※溶接の種類、隅肉溶接については下記が参考になります。

溶接の種類と、隅肉溶接、突き合わせ溶接の特徴


よって、

となります。有効断面積は、

です。ここで、×0.7×6は「のど厚」を求めています。基本的に、力が有効に伝わる断面はサイズの寸法ではなく、のど厚を用いて有効断面積を求めます。また、溶接部の破断強度は400N/mm2の×約1/1.73倍したものです(鋼構造の参考書に付表として掲載されていると思います)。

以上より、

というような計算過程です。あとは、破断の規定式を満たしていないので、溶接部の長さを変更し計算を行います。

まとめ

今回は、保有耐力接合について演習問題を通して、実際に計算しました。実際の構造設計でも、今回と同じ検討を行います。接合部はとても大切です。ブレースを決めたあとは、必ず接合の保有耐力接合ができるよう訓練しましょうね。下記も併せて参考にしてください。

接合部の保有耐力接合と計算方法

接合部に関する許容応力度設計について

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