この記事の要点
終局強度設計で「崩壊形を正しく想定できるか」が設計の精度を大きく左右する。
静定構造なら一か所のヒンジで崩壊するが、不静定構造では複数ヒンジが形成されて初めて崩壊に至る。
仮想仕事法を使えば、仮定した崩壊形に対する終局荷重を計算できる。
正しい崩壊形は「終局荷重が最小」になる形なので、複数のパターンを比較する手順も必要になる。
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前回説明した、全体崩壊形か部分崩壊形かを判断するためにはこれらの崩壊形が、構造的に『どこで?』壊れるのかハッキリさせる必要があります。
まず鉄骨造の梁端部で曲げ降伏が発生する場合を梁降伏と呼びます。柱の柱頭、柱脚にヒンジが発生する場合を、柱降伏と呼びます。最後に、柱と梁で構成される仕口部、これをパネルゾーンと呼びますが、パネルゾーンが崩壊する場合を、パネル崩壊と呼びます。
前回説明した通り、梁降伏が最も望ましく建物のエネルギー吸収が優れています。
一方、柱降伏は、部分崩壊となる可能性が高く早期に建物が崩壊する恐れがあるため、望ましくありません。
また、比較的新しい知見でパネルゾーンの崩壊も着目され、パネルゾーンが地震力のエネルギー吸収において無視できないことが明らかになりました。
しかも、パネルゾーンは非常に優れたエネルギー吸収を発揮します。
以上を踏まえ、梁降伏又はパネル崩壊の場合は全体崩壊形であると判断されます。一方、柱降伏の場合は部分崩壊形です。
この両者どちらであるか?を判定するためには、つまり柱耐力Mpcと梁耐力Mpb又はパネル耐力Mppの大小を比較すれば良いことになります。
ΣMpc ≧ min(αΣMpb , βΣMpp)
上式でOKになるならば、その建物は全体崩壊形です。それ以外の場合は、部分崩壊形となります。これを各階で判定し、必要であれば耐力の低減を行ってQu/Qunを満足させる必要があります。
混同しやすい用語
全塑性モーメントと降伏モーメント
降伏モーメントとは、断面の最外縁が初めて降伏するときのモーメントです。
全塑性モーメントとは、断面全体が塑性化したときのモーメントで、降伏モーメントより大きい値です。
崩壊形の判定には全塑性モーメントを使います。
αΣMpbとβΣMpp
αΣMpbは梁の全塑性モーメントの合計に係数αを掛けたものです。
βΣMppは柱の全塑性モーメントに関係する値です。
崩壊形の判定ではΣMpc(柱の全塑性モーメント)をこれらの最小値と比較します。
ある鉄骨造の梁柱接合部において以下の値が与えられている。
全体崩壊形かどうか判定せよ。
条件:ΣMpc = 300 kN・m、ΣMpb = 240 kN・m(α = 1.1)、ΣMpp = 160 kN・m(β = 1.5)
αΣMpb = 1.1 × 240 = 264 kN・m
βΣMpp = 1.5 × 160 = 240 kN・m
min(αΣMpb, βΣMpp) = min(264, 240) = 240 kN・m
ΣMpc = 300 ≧ 240 → 全体崩壊形 ○
柱耐力が梁耐力・パネル耐力の最小値を上回っているため、梁またはパネルが先に降伏する全体崩壊形と判定される。
条件:ΣMpc = 200 kN・m、ΣMpb = 250 kN・m(α = 1.1)、ΣMpp = 180 kN・m(β = 1.5)
αΣMpb = 1.1 × 250 = 275 kN・m
βΣMpp = 1.5 × 180 = 270 kN・m
min(αΣMpb, βΣMpp) = min(275, 270) = 270 kN・m
ΣMpc = 200 < 270 → 部分崩壊形
この場合、保有水平耐力の算定において耐力低減(Ds値の調整)が必要となる。
| 全体崩壊形 | 部分崩壊形 | |
|---|---|---|
| 塑性ヒンジの位置 | 梁端・パネルゾーン | 柱頭・柱脚 |
| 耐震性能 | 高い(エネルギーが分散) | 低い(1層で集中崩壊) |
| 保有耐力の扱い | そのまま使用可 | 低減係数を掛ける必要あり |
「梁が先に降伏するのは危険では?」は間違い。
梁降伏は最も望ましい崩壊形である。
柱は最後まで建物を支え続けるべきで、梁が全階で均等にエネルギーを吸収することで建物全体の粘り強さが発揮される。
Q. 全体崩壊形の判定条件を式で示せ。
A. ΣMpc ≧ min(αΣMpb, βΣMpp)。
各接合部および各階で確認する。
Q. 部分崩壊形と判定された場合、保有水平耐力の算定にどう影響するか。
A. 構造特性係数 Ds を大きくする必要があり、必要保有水平耐力が増加する。
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