物には強度があります。材料力学では強度をいくつかの種類に分けています。1つは破断強度、2つめは降伏強度です。
降伏強度とは、部材が降伏(弾性が塑性領域に移行すること)するときの強度です。そして、私たちの身の回りにある生活要因あるいは建築物、機械などはできる限り降伏しないよう設計されています。
しかし降伏強度ギリギリで設計すると、万が一降伏する可能性があります。そこで、一定の安全率を見込みます。今回は、そんな安全率について降伏強度との関係や、色んな材料の安全率について説明します。
安全率とは、冒頭で説明したように材料が本来持つ降伏強度に対して、「安全をみて、降伏強度を低減する数値」のことです。
降伏すると材料は不安定になります。降伏強度ギリギリで設計すると、万が一予定より大きな力が加わると途端に不安定になるわけです。それを避けるための安全率です。
例えば、ある材料の降伏強度をAとします。一方、応力度はBです。
A>Bのとき
作用する応力度が降伏強度より小さいので、降伏はしません。
一方、A=BおよびA<B
の状態は、部材が降伏したということ。
設計するとき後者にならないよう部材の大きさを決めるわけですが、前者においても安全率をあらかじめ定めておけば、不足の自体が起きても対応できます(例えば予定より大きな荷重が載ったなど)。
つまり、下記のように降伏強度を一定の値で割ります。
Aは降伏強度、vを安全率、A'は許容応力度といいます。何度も言いますが、本当の幸福強度はAです。しかしAの値を元に設計したのでは、万が一荷重が大きくなった時に耐えられません。
ですから安全率を見込んで、A'で設計を行います。これは建築に関わらず、様々な業界で共通することでしょう。
では安全率はどうやって決めるのでしょうか。建築に限って言えば、実は経験則で決められています。
「このくらい安全を見込んでおこうか」という程度のものです。あるいは、これまでの事故や経験的に作用した最大の荷重を元に決められることもあります。
建築材料の安全率は、材料の種類によって異なります。次に、色んな材料の安全率を説明しましょう。
ここでは建築物に用いられる材料の安全率を示します。
木は後述する材料に比べて不安定な材料です。節もあるし、水分を吸って強度も落ちる。そんな材料だからこそ、安全率は多めに見込んであります。
が木の安全率です。
鋼の安全率は下記の通りです。
です。
コンクリートの安全率は下記の通りです。
です。
材料の種類で安全率が違うことが、分かって頂けたでしょうか。
最後にもう1つ安全率に関係する許容応力度について説明します。冒頭で安全率と許容応力度の関係は下式で示しました。
説明を省きましたが、このA'は長期許容応力度と呼ばれます。「長期」とは「常時使用する」という意味です。私たちが普段生活するとき発生する応力。これに対しては安全率で割ったA'を設計に用います。
一方、地震や台風などの災害時(短期時といいます)にも、安全率を見込むのは余りにもコストがかさみます。
地震や台風は毎日起きるわけでは無いからです。「通常使う荷重に対しては安全率を見込むけど、災害は毎日起きないし、そこまでしなくても良いでしょ」ということです。
そのため短期許容応力度は下式で示します。
要するに降伏強度そのまま使うわけです。
今回は安全率を説明しました。今回理解してもらいたいことは、安全率を考える意味と許容応力度との関係です。
構造計算や設計の基本となる考え方ですから理解しておきましょう。